皮下血腫を作るなんて 医師として 恥ずかしい
皮膚に注射針を刺すと、ときに出血します。皮膚の下には、脂肪組織と血管があり、たまたま針が血管の壁に穴をあけると、血が出ます。これは注射をする際に、必然的に起こり得ることです。人間のからだは、ここに血小板を集めて出血を止めます。ただし、この止血が完成するまでは、出血が続きます。そして、医師は、早く止血する技術を持っています。
ボトックス注射で用いる注射針は、32G(ゲ-ジ)というきわめて細い針です。したがって、血管の壁にあいた穴は、きわめて小さなものです。通常は、静脈からの出血です。針を抜いた直後、あるいは抜いてから数秒後、数分後に出血が起こります。出血は、皮膚の上に流れ出るものと、皮膚の下に、紫色の皮下血腫として貯留するものとがあります。皮膚の上に流れ出る出血は、止血したあと、かさぶたを拭き取れば皮膚はきれいに保たれるのですが、これが皮膚の下に出血が溜まると、数日間、まぶたが紫色に腫れて、不愉快な気分になります。
注射針を抜いて、出血をただちに確認した段階では、血管の壁の外側に漏れた血液の量はきわめて少なく、小さな皮下血腫に留まっています。ここで、きっちりと止血作業を行います。2分から4分間、きちんと圧迫止血をして、出血を完全に止めます。それから、続きの注射に戻ります。こうすると、わずかに小さな紫色の皮下血腫が残りますが、大事には至りません。
しかし、次々と注射を進めていて、出血に気付くのが遅れれば、あるいは不十分な止血に終われば、取り返しのつかない、はっきりとした紫色の皮下血腫を作ってしまします。顔面をぶつけたあとのような紫色のまぶたが数日から1週間、目立つ、実に不愉快な結果になります。
皮下血腫ができた場合、その因果関係は明らかです。原因は、医師の注射です。出血は、ただちに止めなければいけません。ボトックスを注射したら、まぶたが紫色になりました、というのでは、医師として恥ずかしいと私は考えます。